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高森明勅
2016.10.12 01:00

生前退位を可能にする法改正の中身とは?

産経新聞(10月10日付)が
たとえ一代限りであっても生前退位を認めれば、膨大な法改正が
必要」と“脅し”ていた。

膨大“だから”止めるのか。

勿論、そんなことはない。

どんなに膨大でも、“必要な”改正ならやるべきだ。

だが、実際はどうか。

皇室典範については、以下で全て(
10月のゴー宣道場参加者には
おさらいになるが)。

まず、第4条をこう改正する。

「天皇が“退位し、又は”崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」
これで、生前退位が可能になる。

しかし、その“要件と手続き”を定める必要がある。

でないと、強制や恣意的な退位が起こりかねない。

よって「第4条の2」(又は同条第2項)として、次の条文を追加。

「天皇は、皇嗣が成年に達しているときは、その意思に基き、
皇室会議の議により、退位することができる」
まず皇嗣がいなかったり、未成年の状態での退位は当然、
避けるべきだろう。

次に、“強制”の可能性を排除する為に
その意思に基き」と要件を明記する。

一方、恣意的な退位を防ぐ為に、退位の最終的な決定を
皇室会議の議による」とする必要がある。

これで生前退位否認論の最大の論拠、
自由意思による退位を認めるなら、同じように自由意思による
即位辞退を認めないと不均衡。
しかし即位辞退を認めると世襲制が危うくなる」
との反論は成り立たなくなる。

以上で基本的な改正は完結。

あとは、それに関連した微調整のみ。

それも殆ど“自動的”に決まる内容だ。

まず、退位後の称号は歴史的に「太上(だいじょう)天皇」。

これを特に変更すべき理由はないし、他に適当な称号もない。

よって、これを採用する。

しかも、当たり前ながら皇族の身分に留まられる
皇太后は今の典範で既に皇族に留まられる)。

そこで、第5条はこうなる(ここで掲げるのは生前退位“のみ”
対応した改正、以下同じ)。

「皇后、“太上天皇、”太皇太后、皇太后…を皇族とする」
太上天皇が皇族の身分に留まられる以上、
摂政への就任資格を
持たれるのは当然(
皇太后は今の典範で既にその資格を持って
おられる)。

ならば、第17条の摂政就任の順序の規定中、「皇太后」の前に
太上天皇」を入れる必要がある。

また皇族は皆さま決まった「敬称」がある。

太上天皇は無論、「陛下」(皇太后は既に今の典範で「陛下」)。

これは第23条の改正。

天皇、皇后、“太上天皇、”太皇太后及び皇太后の敬称は、
陛下
とする」天皇の「大喪(たいそう)の礼」については
第25条に規定。

だが太上天皇については、特に条文に入れるには及ばないだろう。

その「葬る所」を「陵」と称すべきなのは、現制の皇太后と同様。

これは第27条の改正。

「天皇、皇后、“太上天皇、”太皇太后及び皇太后を葬る所を陵、
その他の皇族を葬る所を墓とし…」以上で典範改正の全てだ。

追加条文1、改正条5。

ごく僅かな改正に過ぎない。

ならば関連法の改正が“膨大”になるのか。

とんでもない。

それについては改めて。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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